ドキュメント:歳の印2019 その13「価値」2019.12.13
正直なところ、自分はこの歳の印について、いい仕事をしたとは思っておりません。
ハンコ職人の本義とは、印面に唯一無二の文字を彫りこむこと。
彫る技術はもちろん大事ですが、印稿、つまり文字とバランスの方にウェイトを置くべきです。
そこがおろそかになったハンコに価値はありません。
いかに美しく彫られたものであったとしても。
そしてもう一つ、実用品を作る技術者であること。
ハンコなのですから、誰であろうと捺せなければ意味がありません。
それらの視点からこの歳の印を見ると。
まずなにより、製作期間が短かった。
動き出すのが遅かったため、なにより大事な印稿にかける時間を十分にとることができなかった。
その結果、不完全の印稿で彫り始めることになってしまいました。
さらには、実用品というにはあまりにも巨大なハンコ。
まず素人にはまともに捺せないでしょう。
プロである自分ですら、特殊な方法で20回近くも捺して、なんとか使えそうなものが数枚という有様です。
9センチ角に歴代元号506文字を彫りこむ、それ自体はすごいことです。
パフォーマンスとしては有効でしょう。
しかし……それは「ハンコ」と言えるのでしょうか。
誰も捺せない、そこに重要な意味や用途があるわけでもない。
ただ飾られるためだけに作られた「それ」に、果たして価値はあるのでしょうか。
何のための歳の印なのか。
依頼主の要望に応えるのも、ハンコ屋として正しい姿ではありますが……。
自分たちは、ハンコ屋です。彫刻家ではありません。
苦労して彫り終えた後も、釈然としないまま最後の作業へ移ります。
続く。
◆ 動画 ◆
【手彫り】歳の印を彫る。04仕上げ⑥114時間10分仕上げ終了
ついに仕上げ完了! 次回でラストです。
YouTube
https://youtu.be/1ThE-jxCkK4